信州中野・日本酒 岩清水 JUPITER 2019 生原酒 Harmonie
2019/08/07
・
・
気楽なところで、一生懸命…と言うことです。
本日はお酒呑みのお噂にて、お付き合いを願います。
これまでのシリーズとして、
「M」のMARS、「E」のEARTHとあり、続いて登場した「J」のJUPITERと言うカタチ。
裏ラベルによると、
信州中野産信交酒545号(山恵錦)90%、
信州中野産ひとごこち 10%…とあります。
主となる酒米が異なり、また麹歩合も「M」と「E」とは異なるそうです。
今や長野県だけでない、
全国各県、酒どころであればあるほどに、
新しい酒造好適米の開発が進められておりますよね。
気がつくと、見慣れない名前が酒名と共に並んでいて、
「えっと、それは酒名なの?酒米なの?」なんて思ったりすること、
SNSを眺めていれば、情報が早いだけに殊更に感じたりもする昨今でございまして。
美山錦、ひとごこちを主体としている信州、長野県、
次いで、金紋錦、たかね錦を耳にする機会が多いでしょうか。
新しく登場した「山恵錦」は「さんけいにしき」と読み、
醸した蔵元さん方も、今こそ!と言うカタチで、よく宣伝されている…
…そんな風に感じます。
自分も、何点か飲む機会に恵まれて味わいましたが、
香が出やすく、スッキリした酒質になりやすいのかしら?
…なんて思っております。
酸も強く特徴的に出ずに、雑味感も少ないような…そんな感じ。
強い味わい、個性と言うよりも、上品な仕上がりになる酒米なのかなー、と。
「岩清水」蔵は、比較的早い段階で「山恵錦」には挑戦していて、
「純米大吟醸 ROSIE」が、これに当たりますね。
非常にエレガントなお酒だったと記憶にあります。
そこで、今回の「JUPITER」…、
相変わらず、楽しみな思いを胸に、味わって行きますが…。
・
上立香は密やか。強く派手に香るタイプではなく、
甘味のある香、蜂蜜を水で溶かした様な香が届く。
ひと口、すぐに浮かぶイメージはリンゴ。
リンゴの皮ではなく、白い果実の部分。
上立香の上品な印象はそのままで、
“派手な、青リンゴ的でない、キャンディのような”…
そうした分かり易い香のキャラクターでなく、
ううーん、何とも言葉にし難いな。
信州人として、リンゴのある土地として、
果汁100%の「明治・果汁グミ」のリンゴ味だって、
「これはリンゴのお菓子の味」だと思う土地柄で、
じゃあ、リンゴの本当の味って何か…
…と言うと、甘味もあり酸味もあり、
果汁が溢れて来るような、とてもジューシーなものを言う…
旬の、本当に美味しいものは、そうした味だと知っていて、
それに近いと思うんです。
だので、メモの始まりは、
「うーお、リンゴだ」
…とあります。
これまで比較的シャインマスカットを想像させる香味だった岩清水。
MARS、EARTHと共通項を持ちながら、
やはり酒造好適米の個性も出て来るのか、味わいに違いを感じます。
でも、うん、先に試していたYOKOさんに聞くと、
良い評価、迷いも淀みもなく「美味しい」と応えてくれる、
僕も、まずは「美味しいなぁ」と思う、雫の麗しさがあります。
さて、メモの続き。
重いか?重いと言うか、すごく濃密に太い。
これ、五割麹(MARSのこと)より…
なんて言うの、密度が高いと言う?…かなぁ。
しかし、粒子の個別のサラサラ感はあると言うか、そうした舌触り。
重いと言う言葉は、うん、似合わないな。
サバケ、余韻の段になってもくどさもなく、
香と共に、スーッと抜けがむしろ良い。
酸などのバランスもあるのか、密度が高いと言うか、
あれよ、そう、リンゴに近い感覚、
少しの渋さがボディをしっかり支えてくれるんだけど、
“可憐な渋さ”とでも言うのか、軽い渋味が、旬のリンゴみたい。
極上の、生の、自然な味わいの極致。
柑橘類が持つ酸のイメージは、内包されたものが、
パン!と弾ける様な芳しさだったり、放射状に広がるイメージの渋さだったり。
そう言う意味では、とても穏やかにじわっと染み込んで感じられる。
弱くではなく、細やかに丁寧に、強く入り込んで来る。
何だろ、酸の印象をMARS、EARTHと比べて感じやすい…のかなぁ。
甘味はMARSっぽく、酸はEARTHっぽい様な…
でも、それは近似的に捉えようとして、そう思うので、
それぞれ3本ともに、それぞれの美味しさがあって、実に良いですね。
先日もSNS上で、少し賑わっているところを眺めていたけれど、
一時期流行った…ええと、たぶん10年くらい前が最盛期でしょうか、
「白ワインっぽい」と表現される日本酒、
ああした酸の世界観が、
現代は山廃、生もと系の台頭によって叫ばれなくなった様に感じます。
現に、YOKOさんはかなり強い渋味センサーを持っていて、
僕が何にも感じない場合、美味しいと思う場合も、
かすかな渋味苦味が刺さる場合があって、顔をしかめていますね。
こと「JUPITER」について、
これまで酸について書いて来ているけれど、
そのYOKOさんの、ある種ネガティブだからこそ信頼が置けるセンサーには、
全く感じ取れていない酸、渋味の雰囲気は、
例えば「福島・自然郷」だったり、
どこか「信州大町・北安大国“居谷里”」の直汲み生だったり、
甘味と酸味、渋味のトータルバランスが非常に良いお酒と同じ…
どこか現代のお酒を更に進化させた様な風合とも合致すると思うんです。
…んー、そう言う意味では「MARS」「EARTH」だって、
「こんなお酒、飲んだことない!」って、
驚かせることが出来る、目が覚める様な美味しさを持っていますけども。
冒頭に書いた、
多く「山恵錦」のお酒にある、香味の高さ、軽さ、
そうしたお酒のモデルケース的な所からは、
流石、岩清水蔵と言うか…
「こんなにも山恵錦で、旨味も豊かに出るのか」とも感じました。
軽やかな純米吟醸用以上に向けた酒造好適米かと思っていました。
抜群の酒質の良さが現在の「岩清水」蔵にはあって、
後に残らなさ、自然で豊かな香味、山恵錦らしい、
エレガントな雰囲気造りが維持されたままに、
迫力もある印象を持ち合わせています。
相反する言葉かも知れない。
でも両立していると言う美味しさがあります。
山恵錦の更なる力を引き出している…とも感じます。
もっとも、他の蔵元さんは、
むしろ蔵の個性より、モデルケース的な、
香、軽さ、適度な酸のキャッチーな酒質を目指していて、
個性を出す酒造りは今後…と言うだけかも知れませんが。
以前、杜氏さんと話したことがありますが、
ある酵母について、
「酵母の基本的な特徴のお酒にならない」と言う…
突き詰めて酒造りを研究し、
日々練成されている杜氏さんの酒造りは、
ブラインドで飲んでも「あ、あの酵母だ」と分かる酵母を使っても、
杜氏の手腕で、酵母たちのまた別の顔、
別の良い味わいを引き出している…と言う事が、
もう数年に渡って続いていて、
蔵癖と言う言葉よりも、
酒造りの設計図、飲んでもらいたい香味の操作と言うか…
それこそ杜氏の技術力と言いますか。
この「山恵錦」においても、こう来るのか、
こう表現をして来てくれるのか、味わうことを楽しませてくれるのか、
…そう感じずにはいられませんね。
・
YOKOさんが「くしゅん」とする。
「鼻がむずむずする」と言う。
香が高いものを試すと、こうなる。
上立香は密やかに感じただけ…じゃないだろうか。
お酒の内包されている香は、実に豊かで溢れんばかりだ。
飲めば飲むほどに酔う。
お酒とは、そう言うものだけれど、
そう言うものではないのかも知れない。
「岩清水」に今日も酔うのだ。