【旅行記4】亀清旅館で思い出を拾い上げ、また刻む。

SOJA

2020年08月05日 12:00




えー…、
気楽なところで一生懸命…と言うことです。



えー…
今でこそキザに、えー…
こんな落語調にブログを始めておりますがー…
だいたい10年ほど前に亀清旅館を訪れた際には、
落語を覚えたての自分だったでしょう。
温泉について言えば、全くの興味なし。
10年ひと昔と、よく申したりも致しますけれども、
ええ、本当にずいぶん昔のことの様に感じられます。

2011年の11月、
戸倉上山田温泉に「ざぶとん寄席」を見に来ていました。
若旦那であるタイラーさんの奮闘ぶりをテレビで見た後のことでした。
ラーメン好きとして「大黒食堂」にこそ食べに来たことはあれど、
何も知らない戸倉上山田温泉において、
もし泊まるんだったら「亀清旅館」が良い。
他の宿の情報も見比べたりせずに決めていた様に覚えています。

宿にチェックインをして、ご飯を食べて、
それから落語会へ出掛けています。
落語を観覧して数時間の後、宿に戻って温泉に入って。
それは「お風呂」って感覚でしたよ。
あんなに良いお湯なのに。

亀清旅館の温泉、その浴室は21時に入れ替えです。
落語を聞いて帰って来たから男性は小さい浴室側でした。
その日のこと、実際にもう1度泊まったからこそ、
限りなく鮮明に塗り直して、今もまだ覚えています。

この件について、眠る直前にTwitterに記録してあります。



露天風呂も思い出すね。その時はクラックに電飾があったはずさ。
それを見ながら、「入らなくちゃ」って思いで入っていたはずだ。
良い。色々と信州200ヶ所以上巡って分かる。
これは良い。特に良い。
たぶん、お湯の使い方だわ。小さめ浴槽の掛け流しの威力だわ。

あはは、分かった分かった。
僕は10年前は間違いなく温泉を知らなかったんだなぁ。
その良さを。YOKOさんのおかげで知ったんだなぁ。
しみじみ、昔は入れないと思っていた熱いお湯、
たぶんここで「行ける」ってきっかけを掴んだのは間違いないや。



…と。
大浴場に比べて小さい浴室は、ちょっと暗いです。
落ち着く暗さです。
夜、そこそこに遅かったろうけど先んじて2人いて、
体を洗って内湯に入る…かなり熱く感じて困るし、
その様を見られる事が嫌で温泉に行きたくなかった当時の自分だったから、
露天風呂に逃げる様に出る、
11月の露天風呂だから、少しだけ温度が低く、
「あっ、これなら!」と思って入ると、
目の前に電飾入りのクラックがあって…と言う記憶。
ほら鮮明でしょう?

最初は「あわわわ」って入っていた気がするんです。
で、慣れて来ると「おや?案外、気持ち良いかも」って。

夫婦揃って、週に3回は温泉に出掛ける様になった今、
温泉がない日常は、
コロナ自粛下においてこそ、よーく分かったけれど、
たまらなくストレスになる事が分かりました。
こんなに温泉好きになるなんて。

亀清旅館での一件の後、
一陽来復、新玉の春も過ぎ、
夏のころ、仕事の事で、かなり張りつめていた自分に、
YOKOさんが声を掛けてくれて、義両親と共にドライブがてら、
松川村のすずむし荘に出掛けて行き…
…それまで温泉って「絶対行かない!!」って言っていたのに。
それからですね、
「次はどこの温泉に行こうか」と話をする様になったのは。
亀清旅館、すずむし荘を経て、
県内200ヶ所以上も巡ったりしている今に至る。

えー…
人生は全てそう言うもの…
過去があるから現在があるものでありますが、
ひとつの契機を覚えていると言う…。
亀清旅館に泊まったからこそ現在に繋がっていると思う、
当時の自分たちに出会い、
またその当時は水質検査は通っても浴室が完成されていなかった、
貸切露天風呂の今に出会い…
“随分と立派になって”…とは温泉に掛ける言葉じゃねェかも知れませんが。



そんな始まり、湯船の上の青空。
最高の心地で逗留が始まった…と言う一席でお付き合いを願います。

んー…主題はもう喋ってしまいましたので、
あとは惰性で参りたいと思います。
いやいや、他にも2回目の亀清旅館でお喋りしたいことがありますので、
気合を入れて、一生懸命申し上げます。
どうぞ最後まで、よろしくお付き合いを願っておきますが…。






「おかえり」と思うほど立ち寄ってはいないけれど、
個人的には、温泉饅頭的なものの代わりに、
卓上に置かれた「シアトルのクッキー」を見て、
食べて、「亀清旅館だな」と安堵すると言うか。

タイラーさんに伺うと、
貸切風呂「しなの風呂」は、このコロナ化においては、
通常の45分2200円の料金を無料にしているとのこと。
それはラッキー。
そもそも、2200円を払ってでも、
どうしても入りたいと考えていたものなので。

折しも全時間が空いている…とのことで、
一番風呂を頂くことにしました。



家族風呂としての貸切風呂。大人2人でちょっと余裕あるくらい。
深さも十分。
入口の扉と、この浴槽だけが2011年頃にはあったはず、です。



脱衣スペースと洗い場も完備。すごい。
若旦那タイラーさんの自作のお風呂ですから。



振り返ると、この光景。
亀清旅館は戸倉上山田温泉の中心に位置しているのですが、
森と緑、土の景色、庭園が用意されています。
市街地と言う事を忘れてしまう雰囲気。



空を見上げる。
強い硫化水素の香が、たまらなく嬉しい。
ああ、コロナ禍のこんな状況下だけれど、
でも、今の今だけは、
最高に幸せな心持ちになることが出来る!

感動的ですらありました。



亀清旅館の使う温泉は、温泉成分分析表によると、

「混合(26号, 27号, 30号, 32号, 35号, 40号, 41号, 43号, 46号源泉の混合泉)」

…とあります。
近くの「かめ乃湯」に近い感じですかね。
「かめ乃湯」は更に城山5号泉がありますけれど。
ただ「かめ乃湯」の露天風呂の様な湯の華がなかったので、
そう言う意味では色合いなら観世温泉より?はてさて。
でも、大好きな戸倉上山田の湯の王道と言う感じですね。

写真の通り、
源泉かけ流し(放流式)、パイプ送湯、
加水なし、加温なし、入浴剤、殺菌剤なし。

…最高の状態です。温泉が湧いたそのまま。
この全て揃う設定って、かなりレアもの。
渋温泉は源泉温度が70度を超えるので、
加水が必要だったり、逆に低ければ加温しなくちゃいけないし、
広い大浴場を持つと、45度でも加温するものですし。

実際に、「しなの風呂」は僕にとってもYOKOさんにとっても、
この8年くらい続く温泉生活の中でも、
最上級の良さを感じる温泉でした。ものすごく良かったです。

お湯が良いのは勿論のこと、
浴槽のサイズと投入量がベストバランス。
新鮮さもあり泡付きもたっぷりありました。
匂いは重厚なくらい硫化水素の匂いがあって、
たっぷり包まれるような…
ふくらみと言うのか、お湯の質感も究極の域。

45分と言う時間設定も短くありませんね。
十二分に楽しむことが出来ました。



部屋に戻る途中、書を拝見します。
この前回からの今日までの9年間で、
温泉、書道と趣味が加わって、
こうしたものにも目が向くようになりました。



「鐵と大と」



「鐵之華」

名に「宮入行平」とあります。
はて、書道家さんだろうか…なんて当日は思っていたのですが、
後日調べてみますと、坂城町の刀匠の方。
それも人間国宝。
坂城町の「鉄の展示館」が正に宮入行平さんがきっかけで設立されている様子。
お恥ずかしながら存じ上げませんでした。
いやしかし、今回をきっかけに覚えましたヨ。





亀清旅館の玄関の写真。

「しなの風呂」を借りた後、夕飯の時間までお散歩に行って来ました。
これはまた次回に申し上げることにしまして、



お夕飯前…と言うより、21時前に前回は入らなかった、
15時から21時までが男性用となっている側の大浴場へ。



洗い場の数も多いです。21時以降の大浴場は3カランですね。
「戸倉観世温泉」や「国民温泉」でも見かけますが、
床にお湯の出口があって、流れています。
これ、古い共同浴場にある排水かつ床を温めるシステムだと思うんです。
この「亀清旅館」にもありました。
足の裏が温かくって好きなんです。これ。



「100年風呂」と名付けられている露天風呂。
これも若旦那タイラーさんの手作り。
浅い浴槽は、その分ぬるめになっていて、ゆっくりと浸ることが出来ます。





お夕飯。
コロナ禍の影響で、本来ならタイミングを見計らって出すお料理は、
最初から卓上に用意されています。
…食べてみて、美味しさに触れ親しんでみても、
そうした提供方法、全く問題に感じませんでした。
随所に杏をはじめ、果物の気配があって香良く風味良く。



お酒は、信州山ノ内町・志賀高原ビールから。
これは2011年当時も同じです。



亀清旅館名物のひとつ。
この茶碗蒸しの秘密は、是非とも出掛けて知って頂けたら…なんて思います。
「おお!」と驚いたものの、
僕らは2011年も、こちらを頂戴していました。
エキゾチックな味わい。



日本酒は、セットメニュウで注文すると地域の陶芸家、
アーグネス・フスさんの器で飲む事が出来る!…と聞いては、
是非ともそちらで!…と思います。
前回泊まった際には存じ上げず、その直後ですね。
知って…興味を強く持ったものでした。



ぐい呑みはこちら。印象的な渦巻模様。
綺麗ですよねぇ。菱型の徳利も日本古来の考え方では、
けっして辿り着けない形状だと思います。
いつか我が家に欲しいと思っていますが、
入手経路がまだ開けず…分からないので、ゆっくり調べて行きたいところ。



僕らが夕食を楽しんだ部屋は、2011年当時と同じ部屋。
その頃は、この牧水の歌も読めなかったでしょう。
書道教室に通い、仮名を学びつつある今では、
だいぶ読む事が出来る様になっています。

人の世にたのしみ於ほし然れども 酒奈しにして、奈にのたのしみ・酔牧水

「於」は“お”、「奈」は“な”と読みます。
仮名では本来の漢字を含む事があります。

佐久市望月宿の「御園竹」を醸す「竹重本家酒造」のブランド、
当日も3種類の中にありました「牧水」、
お酒を愛した歌人・若山牧水への敬意から名付けられたものと存じます。

温泉に入って良い心持ち。
亀清の美味しい料理、地の酒と共に酔い心地。
そこで、この歌。
「そうそう。本当にその通りさ!」と夫婦そろって頷く良いカタチ。

今日は信州の酒の企画展を見て亀清旅館に辿り着いている訳ですから、
お酒のご縁がここにもあって嬉しいと思います。



その後、21時を過ぎたことで浴室が変わり、
思い出の浴室に出掛けて行って、色々と思い出す訳です。

温泉に入った回数は、佐野川温泉・竹林の湯も含めて4回。
流石に疲れもちょっとあって、早めに休みます。





翌朝、歩いて10秒くらいのお隣とか真裏とか…
すぐ近くの「瑞祥」に朝風呂で出掛けて行きました。
いやあ、「瑞祥」の朝風呂に入る日が来るなんて。
基本的に泊まらないと実現しないものですから。
朝の空気感。とても良かったです。



湯上り後、ご飯の時間まで部屋でぐったり。
このルームファン良いですね。
とっても効果的。
いつかの為に記録に残しておこう…と、
ぼーっと眺めながら写真を撮る。




こちら、亀清旅館の朝ご飯。
豪華。美味しく全部平らげて、2日目の栄養に。



亀清旅館の玄関に掲げられている書。

「強思力行 崇徳廣業」とあります。

「正三位素介書」と書いてある…と思います。
一生懸命調べたところ、
恐らくは、長州三筆と呼ばれる「野村素介(号は素軒)」の書と思われます。
天保から昭和に掛けて生きた長州藩士。
大町市の小学校や松本市の四柱神社にも野村素介の書はある様子。

きょうしりっこう、すうとくこうぎょう…でも良いと思うし、
強く思いて力行し、徳、崇くして 業を広む…でも良いと思います。
モジったものか、検索していると「強志」もあるみたい。
とても良い言葉ですね。

…と言った所で、
亀清旅館に一泊して温泉を楽しんだ噺はここまで。
ちょうどお時間となっております。
温泉を好きになったきっかけはYOKOさんで、
今回、県民割を利用して宿泊しましたが、
その際に、僕は「まだ行った事がない場所」ばかり考えていました。
YOKOさんが「亀清旅館はどう?」と発案し、
そうして今に至る訳ですが、
ナイスアイディアでしたね。
昔の自分に出会うことも出来ました。
ちょくちょくと共同浴場に立ち寄り、
戸倉上山田温泉をそこそこは知っている、好きになっている自分だと思っていました。
いやはや、
今回の亀清旅館、2回目の宿泊でもっともっと気に入りました。
戸倉上山田温泉街、本当に素敵な場所です。
是非とも、また訪れたい!…そう思いました。

それでは、まだ旅は続きます。
次回までの暇と言うことで…。

ありがとうございました。


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